Nogizaka46_Hinatazaka46 novel’s blog

乃木坂46、日向坂46のpv mvを小説化するブログ

乃木坂46小説『天体望遠鏡』-西野七瀬さんへ愛をこめて。

ダイアローグ

天文部は旧高等部校舎の三階にある。

少し埃の被った旧理科実験室。

 

放課後、生徒が帰宅を始めた頃、二人の女子生徒が観測記録を眺めている。

ほどなくして、片方が沈黙を破った。

 

 

「先輩」

 

 

「先輩って、ちょっと天然入ってますよね。」

驚くようにもう片方が顔を上げ、え、どこが、と声を上げる。

 

「例えば、転校してきて大分経つのにいまだに校舎間違えるところとか。」

俯きながら、笑う。確かに、この前は間違えて目の前の彼女が在籍する中等部の校舎に迷い込んでしまった。

 

「先輩を笑わせるの超簡単」

小馬鹿にされたのを笑いながら反論する。そんな赤ちゃんみたいな扱いを受けるのは久しぶりのことだった。

 

「私はちょっとやそっとのことじゃ笑いませんけどね」

はいはい、と言って観測ノートに目を戻す。

 

「先輩」

次は何だと、ノートを見たまま話を聞く。

 

「前に私が好きな人がいるって言ったの覚えてます?」

彼女は今、同じクラスの男子生徒に恋をしているはずだった。

 

「告白しようと思って呼び出しちゃいました。」

今度は、本当に驚いて顔を上げる。いつ、告白するのだと尋ねる。

 

「今です」

どこに

「あそこです」

 

 

天体望遠鏡をのぞきながら片方が言う。

覗き込んでみると、プールサイドで男子生徒が一人、キョロキョロと周りを見渡している。

落ち着かない彼の様子を見て、もう片方は尋ねる。どうするのか、と。

 

「どうしましょう。いざとなったらちょっと怖気づいちゃって。」

不安そうな彼女に、もう一度尋ねる。本当は言いたいんだろう、と。

 

ゆっくりとうなずく。

 

「言うか言わないか、後悔するのはどっち?」

 

そんなの答えは決まっている。それでも不安そうな彼女は、ここで見ていて欲しいと頼んでくる。

しっかりとうなずき、快諾する。

 

「振られたらショックでプールに落ちちゃうかも。」

緊張をほぐしてやるように、少し笑ってその時は、目の前の相手をプールに落としてしまえと助言する。

 

不安そうな顔は変わらず、でも、決心した顔で彼女は旧校舎を飛び出す。

 

天体望遠鏡を覗いていると、周りが真っ黒に切り取られてそこだけがぽっかりと光って見える。男子生徒はまだ、きょろきょろとあたりを見回していた。

やっと彼女はプールサイドに現れ、固まったまま何も言えずにいた。

 

しばらくして、プールサイドで「好きです。」と頭を下げた後輩を突き放すように、片手でゴメンと言って男子生徒は逃げていった。

動けない後輩の体が小さく震えている。

 

ドボン、という音が水しぶきと共に鳴る。

 

バカみたいに気の抜けた笑顔が後輩を笑わせた。

 

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天体望遠鏡湯浅弘章 監督

西野七瀬、庭野結芽菓

『無口なライオン』pvの続編。『天体望遠鏡』でした。

この作品はさらに続く『インスタントカメラ』への重要な繋ぎの役目を果たします。

後輩役の庭野結芽菓さんは『無口なライオン』内では乃木坂46 若月佑美の幼少時代を演じています。強がりで、少し舐めてて、でもよく懐いていて人に嫌われない。

西野七瀬さんは、高校三年生になり少し大人になりました。最後の高校の夏。去年とは違う学校で送る夏。常に、うんうんと笑ってうなずきながらやっぱりちょっと無口で、どこか遠くを見つめてそうな表情をしている夏。

そんな『西野七瀬』の中にも言いたかった言葉は、確かに遠くを見つめないで目の前の彼女に発されています。

 

遠くを見つめる天体望遠鏡。何を思っているの。

 

そんな歌詞が浮かんできそうな短くて暑くて消えてしまいそうな夏の一編の物語。

 

若月佑美さん、西野七瀬さんの卒業に際してこのブログでコツコツと小説を書いています。

 

良かったら、前章に当たる小説版『無口なライオン』もぜひ。

小説『無口なライオン』 - Nogizaka46_novel’s blog

続く物語、そして完結編に当たる『インスタントカメラ』は少々お待ちください。

 

それでは今日も、西野七瀬さん、若月佑美さんへ。そして読んでくれた貴方に。

精一杯の愛を込めて。