日向坂46小説 ~けやき坂46から日向坂46へ。長濱ねるに捧ぐ小さな説(はなし)。
乃木坂46小説と名乗っているのに、全然上げれずに申し訳ありません。今回は、けやき坂46改め、日向坂46と長濱ねるさんのお話。
pvもなければ、原曲もないこの小説は、ただ、けやき坂46という歴史を追ったものです。
長濱ねるさんが卒業を発表されたのは、けやき坂46が日向坂46と改名しシングルデビューを決めた、デビュー直前コンサート後のことでした。
「けやき坂46」という名前と共に、活動をしていた長濱ねるさんに向けて。
そしてこれから走り出す日向坂46に向けて。
微力ながらも応援できたらな、と思います。この文章はむしろ日向坂46に詳しい人向けかもしれません。簡単な読み物とおもって読んでいただければ。
#長濱ねる #けやき坂46 #日向坂46 #オードリー
けやき坂46から日向坂46へ
長濱ねるに捧ぐ小さな説
ひらがなけやき
一本の欅から色付いていくように、この街に少しずつ、なじんでいけたらいい。
舞い落ちる枯れ葉達は、季節を着替えて一日一日と変わっていく。昨日とは違う表情を街に映す。秋から冬へと変わり、やがて春が来てきっと花が咲く。
そして、芽吹きと共に青空が美しく色づく。
一人の学生が並木道を歩いていた。懐かしくて、新しいこの街に越してきたのは4年前。
並木道の先にある小高い丘に一本立つ欅の木を眺める。
私は今日この街を発つ。
けやきの丘で会いましょう
長濱ねるは、水色の絵の具をぶちまけたような清々しい青空を見て、少し昔のことを振り返っていた。
不思議な伝統のあるこの街では一人一本、16歳の年に欅を植えることになっている。
転校生だった彼女は周りより一足遅れて、この街に欅を植えることになった。少し離れた並木道の先にある小高い丘。遅れてしまった分、早く育つように日の当たる場所に植えよう、と。
しかし、なかなか芽が出てこない。丘の上にある苗にはなかなか水をやる人がいないのだ。それでも欠かさず、毎日毎日水をやっていた。
一人転校してきて友達も少ない彼女にとって自分と同じタイミングで植えられたこの欅の苗は大切な大切な友達だった。学校が忙しくなっても、部活が忙しくなっても、雨の日でも、風の強い日でも毎日。毎日。
この苗を彼女は「けやき」と名付けることにした。まだ欅ではないけれどこれからきっと大きくなっていく。
今は、ひらがなのけやきだけれどもきっと大きくなってあの欅並木にきっとなれる。
とある日、けやきの世話をしていると丘の向こうの街から11人の女の子がやってきた。
背の高い子、背の低い子、大きな声でしゃべり続ける子、一言もしゃべらずに笑っている子。声の低い子、金切り声のように叫ぶ子。たまたまこの日向にある丘に遊びに来たという。
なんだか明るくていいね、この場所が素敵だね。
この小さな木はなんていうの?
けやきっていうの。
けやきちゃんかあ、かわいい名前だね。
そう言って彼女たちもけやきの世話を始めることになった。彼女たちはいろいろな話をした。
けやきちゃんはどのくらいの高さになるのかな。あの町から見えるといいな。
この丘の上で12人で集まっていた。
ねるにとって、転校したての町で出来た初めての仲間だった。頼れるリーダーの久美。動きもしゃべり方もくねくねしてる史帆。優しい声で受け止めてくれる紗理奈。頭のいいねるの理解者の優佳。低い声で鮮やかに歌う京子。おとなしく見えてつっこんでくれる愛奈。人前には絶対に立たないのに元気な芽依。幼い甘えん坊の芽実。お母さんのように優しい料理上手の美玲。スタイル抜群でかっこいいのに、ちょっとおバカな彩花。そしてしゃべりだしたら止まらない眞緒。
学年もばらばらで、個性の強い子たちだったけれど、12人で集まってはけやきの世話をして話し込んでいた。
それでも、ねるが町の活動で少しずつ忙しくなるにつれて12人では集まれなくなっていた。
ねるが来るまで、大事に育てようね。ねるが来たら、びっくりするよね。
冬になっても肥料をやり、水をやった。
ねるにも見えてるかな。少しずつ芽を出してきたよ。
春が来て、高さもやっと30センチに届いていた。
走り出す瞬間
そうして、待っていると、今度はまた丘の上に別の女の子たちが来た。
9人の少女たちは、このけやきが見たくて来た、と言っていた。
賢い色気あるお姉さんの愛萌、おしとやかだけど万能な好花、ずっと後ろのほうにいるけど実は一番元気な陽菜、まじめだけどちょっと遊んでみたい鈴花、心優しくおだやかな明里、運動神経抜群な元気印の美穂、絶世の美少女でいじりたがりの菜緒、 オールラウンドにこなせるけど少し自信のない美玖、独自の世界を構築できるひより。
器用でかわいい9人を11人はよく可愛がった。
こうして20人で世話を始めた。
世話を始めて、間もなくねるが丘の上に久しぶりに来た。
浮かない顔をしながら、佇んでいる。
ごめんね。
ぽつりとつぶやく。もう、この丘の上に来ることができないほどねるは忙しくなっていた。
このけやきをお願い。
一言、言い残してねるは丘を降りて行った。欅並木の中にねるが消えていくのを見送るしかなかった。
きっと、けやきが大きくなれば街にいるねるにも、きっと見えるはず。
だってここは日が差す丘の上なんだから。
この名前もない丘で、ねるに見せてあげたい。けやきが大きくなるところを。
20人は丘を駆け上がり、ねるのいる町に叫ぶ。
待っててほしい。ここから私たちが伝えるから。
20人で、毎日、毎日。
毎日、毎日。
毎日、毎日。
けやきが少し葉をつけるようになったころ、街の人を呼んでピクニックをした。
けやきっていうのかい?いい色をしているね。
僕はこの丘が好きだよ。
そうやって街の人は言って帰っていった。
それからも、毎日、毎日、毎日。
水をやり、肥料を与え、言葉をかけ育ててきた。
時折、夕暮れになるとピンク色のベストを着た筋肉質な男の人と、斜に構えたよく笑う男の人が座って彼女たちを眺めては応援していた。
一人の小さな女の子がある日、けやきの丘にポツリと座っているのを見つけて声をかけてみると、この丘をよく見ていたんだ、貴女達に会いたかったという。
あどけない顔の彼女は、ねるに少し似ていた。ひなの、と名乗る彼女は突拍子もないことを言っては笑わせてくれる表情豊かな子だった。
21人になって、けやきの木に水をやった。
日向坂、けやき坂
ねると出会ってから3年間、育て続けてきた。
毎日、毎日。名前もない丘に通ってこの木を育て続けてきた。
けやきはもはや、一本の大きな欅の樹であった。
けやきの下でくつろいでいると、町長さんがやってきた。
いい色のけやきだ。黄緑色で優しい。何より、この青空が似合う。この丘の名前を決めたくてね。せっかくだから少し遊びに来たんだ。
小高い丘の上、日の差す丘。欅並木の街に続くこの丘を「日向」という名前にしよう。
そして、丘の向こうに住む君たちがつくったあの道を「日向坂」と名付けよう。
長濱君が通ったこの道は「けやき坂」と名付けよう。
私は、こちらの町の町長だけれど君たちをずっと応援しているよ。
そう優しく言って、町長はけやき坂を下って行った。
入れ違うように、ねるがけやき坂を登ってくる。
ニッコリとほほ笑んで、看板を作ってきたの、という。
水色の文字で「日向坂」と書かれた木の板の看板。
そして、相変わらずののんびりした話し方で言う。
「私ね、この街を離れることになった。」
「けやきを大きくしてくれてありがとう。本当に本当にありがとう。」
「私が引っ越す場所はね、ここから少し遠いんだけどその街からもこのけやきは見えるんだって。だからね、私はさみしくないよ。綺麗な空の色と、やわらかいこの黄緑色が見えているから。貴女達がきっと見えるから。」
「さようなら。」
「大好きだよ。」
日向の丘からねるを見送る。
きっとけやきは私たちを見守り、ねるを見守っている。
21人はけやき越しに青空を仰ぐ。
ねるも青空を見上げた。